Purchasing Must Become Supply Management (8)

HBR誌による記事紹介)

効果的な購買管理の実現は一足飛びにできるものではない。実現途上にある多くの障害を克服しなければならない。しかし、実現成果はその努力に十分に見合ったものとなる。「いつもの購買」の態度は、競争相手に対して企業を脆弱にすることにつながる。しかし、購買領域での戦略的な配慮を強め、柔軟性を向上させ、自発的企業家精神を強化するならば、供給の安全性を改善するとともに、同業他社よりも低いコストを実現できるのである。

多くの企業では、購買は、おそらくは他の業務機能以上に、ルーチン業務と考えられている。無数の経済的、政治的な部材供給途絶は考慮に入っていないか、当然のものとして受容されて、企業は既存のサプライヤーや供給源ネットワーク内で年次価格交渉を継続している。多くの購買管理者のスキルと見解は、比較的安定的だった20年前に形成されたものであり、変わっていない。しかし、世界規模の環境や経済変化を認知し、対応するためには、購買部門を他の部門の背後に位置づけておくことはできなくなってきた。従来の対応は時代遅れでコスト高になる。

この記事で、著者は、トップマネジメントが自社購買の弱点を認識し、購買に対応した包括的な戦略に基づいて弱点に対応するための実用的なアドバイスを提示している。著者は、問題の根源から解決策の導入まで、段階的に読者を導いていく。

Kraljic氏は、国際的なコンサルティング会社であるマッキンゼー社デュッセルドルフ支社のディレクターである。
(訳者によるコメント)

“Purchasing Must Become Supply Management (Peter Kraljic)”は、1983年秋にハーバード・ビジネスレビュー誌に掲載された歴史的な論文である。この論文は、著者Kraljicが独化学メーカーのBASF社の購買部門でコンサルティングを実施した際に、営業部門から移動してきたクライアントの新任購買マネジャーから、購買領域には他分野のような戦略ツール(例えば、ポートフォリオマトリックスのような)がないと指摘されたことを契機にして構想したものである。
この論文の影響は大きく、例えば“Supply management”という用語は、米国購買管理協会(”National Association of Purchasing Management (NAPM)”が2001年に” Institute for Supply Management(ISM)”へと改名した際にその名称に取り込まれた。また、論文内の図1のマトリックスは創始者であるKraljicの名前が明記されない状況で、その変形版も含めて、多数散見される状況にある。また、コンサルタントによる利用に加えて、アカデミックの世界でも多くの学術論文の題材となっている。また欧米では、購買関係者ならば誰でも読んでいる基本論文の1つであり、この論文を読んでいることを当然の前提として議論が進んでいることが多い。例えば、毎年5月のISM総会出席者のほとんどは、多少はあれどこの論文の知識は持っているのを当然と考えるべきである。
論文の内容を見てみると、27年前に記述されたとは思えないくらいに現代でも通じる内容が多い。「資源の枯渇や原材料の希少化、供給市場での政治的混乱や政府介入、競争の激化、技術変化の加速が、何の驚きも無かった時期を終わらせようとしている。」などの記述は、そのまま現在でも通用する。一方で、論文の着地点は、品目カテゴリー単位の位置づけを明確にし、対応の方向性(Strategic implication)を提示するにとどまっており、図2の利益への影響度と供給リスクの2軸で「ストラテジック」「ボトルネック」「レバレッジ」「非クリティカル」の特性区分と基本対応アプローチを提示後、サプライヤーの強みと買い手の強みの2軸から「ストラテジック品目」のみについて対応アプローチの詳細化を行っている。基本特性と対応アプローチ識別までがこの論文の範囲であって、それ以降の具体的な戦略立案と実行までには至れていない。 しかし、マトリックス手法の導入に関する後続への貢献は非常に大きく、前述のように多数の論文類などが残されることとなった。しかし、購買領域でのマトリックス分析での包括的定番方式・理論が提起されるにはまだ至っていないというのが、現在の訳者の認識である。例えば、サプライヤーの強さと買い手の強さのパワーマトリックスの権威のAndrew Coxは、「ボトルネック」などの残り3つの領域を含めたKraljicチャートと自身のパワーマトリックスの融合マトリックス作成を”Beyond Kraljic”*1で試みているが、どうもしっくりきていないように思える。

*1:http://www.newpointconsulting.com/pdf/BeyondKraljic_DILF.pdf )。
翻って日本であるが、このような分析手法自体が未導入に近い状況にある。日本企業の得意技は、限られた範囲のサプライヤーとの密接な連携でのメリット創出や価格削減を主体とした戦術ソーシングへの傾倒であり、このような全体構図に基づく対応を図れているところはかなり少ない。しかし、昨今の新興国シフトにより、新たなサプライヤーの開拓と既存サプライヤーの集約によるサプライヤーベースの再構築が多くの日本企業では急務となっている。
Kraljic論文には前述したような担当範囲の制約があるが、このような状況下、戦術ソーシングから離れたアプローチに目を向ける時期ではないかと思い、第30回を記念して翻訳してみました。 なお論文原文はタイトルでインターネット(Googleなど)を検索すれば入手可能ですが、下記の訳者サイトでも入手することが可能です。

https://sites.google.com/site/captainpiratesnetarceives/articles/purchasing-must-become-supply-management

また、短時間で実施したため、文章のこなれが悪くや誤訳が発生している場合もありますが、どうかご容赦ください。

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