“共創”の調達マネジメントと広告購買のノウハウ : 第52回関東購買ネットワーク会

広告宣伝は、購買担当者にとって難物のイメージがあるとともに、担当社内部門との関係にも難しいところがあります。第52回関東購買ネットワーク会では、社内部門との関係に”共創”という観点の提案がありました。それとともに、広告宣伝購買への購買観点でノウハウをまとめてみました。


第52回関東購買ネットワーク会では、10月31日に満員の活況で、2人の方の講演を聞くことができました。まず、それらのご講演ついての私のメモをまとめてみようと思います。

第52回関東購買ネットワーク会講演の概要

第1部:ベテラン購買コンサルタントのつぶやき(14:10~14:55)

最初に講演をいただいたのは、経歴10年以上のベテラン購買コンサルタントの方です。「購買コンサルタントのつぶやき」というタイトルで、以下の内容の話をしてくださいました。

  1. 自己紹介
  2. 私はなぜ購買コンサルタントになったのか
  3. 私がやってきたこと
  4. さて購買は変わったでしょうか
  5. これから購買はどこに向かうのか?
  6. これからのこと
  7. 皆さんへの期待

そのプレゼンの中に、発注処理の自動化などから始まった業務効率化から、購入単価低減によるコスト削減段階まで進んできているが、今後はビジネスへの付加価値創造貢献の観点が重要になるとのご主張がありました。

図1_購買部門提供価値の変遷

上のような図を示されながらお話をされたのですが、その「ビジネス価値創造」の部分に関する具体的なお話を、第2部でお伺いすることができたと感じております。

第2部: マーケティングプロキュアメント(15:05~17:00)

第2部にご登壇になられた藤田 浩樹様(株式会社 DONSコミュニケーション マネジングディレクター)は、広告代理店に長くご勤務の後、宣伝部門の側に立ちながら優れたプロキュアメント業務の実践される現在の会社で共同経営者をなさっている方でした。そのプレゼンでは、品目「広告宣伝」の購買についての話を次のアウトラインでいただきました。

  1. 問題点はここ
  2. 目標の共有が大事
  3. マーケティングの実際を少しだけ知ってください
  4. 購買から垣根を越えよう

”共創”の購買マネジメント

購買部門とユーザー部門は、相互に目標を共有して”共創”すべきだ。

ところで広告宣伝の購買というと、あまり馴染みのないご出席者もいらっしゃるかと思われました。そこで今回の購買ネットワーク会の開催に先立ち、少し過激な資料ではありますが、私から購買ネットワーク会メーリングリストを介して資料を事前配布させていただいておりました。講演内容に入る前にその内容の一部の紹介から始めてみようと思います。

広告宣伝購買の状況と問題点

まず「広告宣伝」という品目ですが、購買業務担当者にとっては少し特殊な品目にかんじられるのではないでしょうか。ネットを検索しても、不穏な表現を容易に検索することができます。そのような事例を3つほど拾い出してみました。

図2_広告宣伝品目の位置づけ

下2つの項目は広告部門と購買部門の相互不理解を現すような言葉です。2番めは、2015年(今年)出版された、品目別の供給市場インテリジェンスに関する書籍(購買本)の「マーケッティング」の項より引用しました。購買部門サイドからの「よくある声」と思います。一方で一番下は、宣伝部門から購買部門に対する逆方向の声の典型例のように思えて引用しました。

これら2つは海外の事例です。では国内はというと一番上のような表現をかなりの頻度でみみにします。「不況時の3K」…この言葉はコスト削減の定石として、Google検索してみてもヒットします。

このような言葉の事例に加えて、購買の観点/立場から、広告宣伝購買に対して購買観点で問題として指摘されている事項も列挙してみました。

図3_広告宣伝購買の問題点

なお、これらの広告宣伝購買の現状や問題点の関連資料としては、以下の公正取引委員会資料に的確に整理されていますので、一読されることをお勧めします。
広告業界の取引実態に関する調査報告書(2005年)
広告業界の取引実態に関するフォローアップ調査報告書(2010年)

相互理解に基づく”共創”こそが重要

藤田様は、このような状況を率直にお認めになっていました。しかしその上でユーザー部門の立場から、コスト削減に執心してくる購買部門がユーザー部門(所轄部門、要求元)にとってどのように感じられるのかという観点でお話くださいました。いわく、「宣伝部門にとって、購買部門は鬼のように恐ろしいものに感じられることがある」と。

企業の宣伝部門は、広告費用を最大限に有効活用を図って、収益向上に邁進しています。それが広告部門の最大の目標になっています。それに対して、購買部門が一方的に圧力をかけて削減を進められてしまうのはいかがなものであろうかとのご指摘でした。そして、そうではなく、もっと協調して所属企業にとっての価値最大化を図るべきではないだろうかとのご提案をいただきました。CMの事例で言えば、敵対的なペプシコーラの鬼のイメージではなく、auの「鬼ちゃん」のイメージで進めるべきではないかと、わかりやすい事例を引いてご説明をいただきました。

図4_宣伝と購買のあるべき関係

ではこのような”共創”関係を構築するにはどうしたらよいのでしょうか。それには、宣伝部門と購買部門の双方で目標を共有認識し、その達成に向けた協力関係を構築することが重要なのではないか。そうしないと、企業として重要な利益の最大化を損なってしまうのではないかという点を強調されました。

図5_目標の共有

そしてそのためには、所轄部門である宣伝部門の仕様に安易に口を挟むべきではないとのご指摘もありました。例えば宣伝部門では、あと少しコストをかければ広告効果が飛躍的に拡大する勘所は持っている。そのような場合は、宣伝部門に任せるべきであるとのご指摘があり、強く印象に残りました。

図6_要求仕様はまかせる

前述の私の事前配布資料では、購買の取り組みアプローチの切り口パターンの図に添えて、ユーザーマネジメントは「社内戦争の覚悟が必要」と記述しました。しかし、今回のご講演では、「いやそうではなくて、“共創”が重要なのでは」という点を強くご指摘をいただき、感銘を受けました。

図7a_共創関係樹立

しかし同時に、広告宣伝購買(マーケッティングプロキュアメント)を改善していくためのご提言も、下図に列挙したように頂きました。目標に対してPDCAを的確にまわすことなど、まさに多くのご経験に裏打ちされた大変有意義なご提言と思います。

図8_ご提言

広告宣伝購買のノウハウ

とこで最後に、購買技法的な観点からの整理を少し付け加えてみることにします。なお、購買宣伝品目に関する基本情報は、It’s購買系サイトの「情報源-供給市場インテリジェンス-広告宣伝(Advertising)」に整理してまとめています。参考になるようでしたら、併せてご参照いただきたく、かつその内容も適宜引用しながら、記述していってみようと思います。

広告宣伝の購買に関する問題には、「マーケティングプロキュアメントの問題点」にあげられたものに加えて、もう1つの大きな問題 ー 購入対象の価格設定の透明性が十分でないという事項があるのではと、私は思っています。それゆえに購買的な観点からの価格妥当性の検証が行えず、購買担当者にとっては居心地の悪さを感じるところにもつながっていると思われます。そこで、価格透明性への取り組みの観点から、少しまとめてみたく考えます。

まず最初に、価格制度(代理店への報酬制度)をみてみましょう。

図9_代理店への報酬制度

代理店への報酬制度には、上図の4種類があるとされていますが、そのうちグロス取引が5割以上とされています(論文「広告取引に関する現状と課題 (小泉秀昭,立命館産業社会論集2007年3月)」の調査結果(図1 我が国で用いられている報酬システム(113ページ))。グロス取引とは、一定範囲(期間・対象)の発注額を事前に定義し、その範囲内で”おまかせ”一括で賄ってもらう方式です。このような状況は業務受託関連の品目で発生しがちですが、広告宣伝のようにグロス取引5割以上というのは、コストの透明性という観点ではかなり心もとないものに思われます。

ではグロス取引のような場合にはどう対処すべきでしょうか。コスト構造の分解は定石の1つとなります。

宣伝広告のコスト構造は分解すると、「媒体の購入」と「企画制作サービスの購入」に区分できます。

図10_広告宣伝費用分解

そのうちの媒体の購入は広告枠というモノの購入です。しかも供給量が限られ、需給により価格変動する、いわゆる”相場もの”の購入です。これはある意味、直接材の原材料(鋼材や原油)に似ていると言えるかもしれません。購入者が任意に価格交渉を行い難いものです。
これの状況に対して、広告宣伝品目では2000年代後半より「セントラルメディアバイイング(CMB)」という方式が出てきました。これは媒体社からの購入量が多く、交渉力が強い広告代理店に購買を集中させることにより有利な取引を実現するという「集中購買」の一環です。ただし、媒体の購入ではそれ以上の大きな進展は見られていないのではないかと思います。相場もの”はなかなか手が出しにくく、市場相場価格に依存するのは直接材の原材料に類似するように思えます。

一方で、企画制作サービスの購入はサービス購買の一形態と考えることができます。
そしてこの部分の精緻化を図ろうとする動きが、2000年代に出てきました。フィー制度は企画制作にかかった工数を根拠に購入金額を決めようとする制度です。作業量を明確化し、それに応じた適正な従量制課金を追求しようとするものです。その事例として2000年7月17日の日本経済新聞で「マツダ・日産 広告手数料にフィー方式 – 制作費などに連動」というタイトルで報道がなされました。ある企業では、下図のようなフィー方式とセントラルメディアバイイング(CMB)方式を組み合わせた方式に移行した事例も耳にしています。

図11_フィー方式移行

また、フィー取引で申告された工数が適正に費やされているかを、広告代理店や制作会社の現場を視察して確認するというアクションをとる事例が、国内外であります(直接材の工程監査に類似する活動のように思えます)。
ただし、購買部門が徒にフィーを削減する圧力をかけるのではなく、宣伝部門と十分に協議したうえで最適な落とし所を目指すべきことは、購買ネットワーク会でのプレゼンでもご指摘がありました。

新たに発生してきたもう1つの方式は成果報酬制度です。広告主(買い手企業)と広告代理店で事前設定した目標指標を達成した場合に、成果報酬を上乗せして支払う方式です。これについては、2002年6月28日の日経産業新聞で「広告宣伝費に成果主義導入」というタイトルで報道されています。

このように、サービス購買の領域では、一括価格で購買されているものを分解し、価格透明性を確立しようとする動向が生じており、それは他の品目での取り組みの参考にもなるのではないかかと思われます。


※この記事は、寺島個人の私見として記述するものであり、購買ネットワーク会の公式な見解とは関係ありません。また、記述や図などはプレゼン内容の筆者抜き書きによるものです。

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