Blog" 供給市場分析(Supply Market Intelligence)
要約すると

定義・目的
  • 供給市場インテリジェンスは、供給市場に関する社外情報を収集・分析し、分析結果含めて整理した上で、蓄積・共有する活動です。
  • 情報収集・分析の専門部署が担当することにより、個々の担当者の収集・分析工数を削減するとともに、専門的な視点での高品質の供給市場情報を共有利用できるようにすることを、その目的とします。
  • 供給市場に関する社外情報には、マクロ経済動向、品目ごとの市場状況・価格動向・サプライヤー情報、競合他社動向などが含まれます。
  • (注)供給市場インテリジェンス(Supply Market Intelligence)は、ソーシング・インテリジェンス(Sourcing Inlettigence)と呼ばれることもあります。

    設置の背景
    いくつかの企業では、販売サイドの「マーケット・インテリジェンス(市場調査)」部門が専門組織として設置され、マクロ経済動向、市場動向調査、顧客ニーズ調査、競合他社・競合製品調査などを実施し、その結果を組織内で共有する活動が、これまでも行われてきました。一方で、購買業務では、個々の購買担当者ごとの情報収集が主体で、組織的な情報収集・共有までには至っていない状況が生じていました。
    しかし購買業務でも、専任共通サービス部門である供給市場分析(Supply Market Intelligence)部門を設立して、社外情報収集・分析の知見をここに集約する動きが、いくつかの日本企業を含めて出てきています。 属人的で品質もバラバラな情報に基づいて購買業務が行われ、かつ属人的に重複して収集されyた情報共有もされない状況の解決がその狙いとなります。
    収集媒体とその扱い
    収集媒体とその扱い 供給市場インテリジェンスは、供給市場に関連する情報をバイヤーを始めとする購買スタッフが利用できるように収集・蓄積します。 収集対象となる主な情報ソースとその扱いは、下記となります。

  • オンライン情報ソース(無償):
  • 政府統計など、購買業務に関連する無料のデータソースへのリンクを識別し、アクセス可能な状態にします。
  • オンライン情報ソース(有償):
  • 日経テレコンなどの記事検索サービスや、CAPS Researchなどの情報提供サービスの利用は有料です。そのため、それらへアクセス可能な状態にするとともに、購買スタッフのアクセスID管理も担当する事があります。
  • 購入データ/無料入手データ:
  • 価格動向などの購買業務に適用するデータを入手し、必要に応じて利用しやすい形に加工して、登録します。
  • 有料/無料レポート:
  • Hackett Groupなどの調査会社の有料レポート類、および無料レポート類は、自社収集ニーズに合致するかを確認の上、内容サマリーなどの簡潔な覚書を付して、登録します。
  • 分析結果レポート:
  • 供給市場インテリジェンス(SMI)部門が資料やデータを組み合わせて定形レポートを作成する場合もあります。その場合には、推奨事項を含む分析結果レポートを登録します。

    =SMI(供給市場情報)ポータル=
    供給市場情報インテリジェンス(SMI)部門が、収集・加工した情報は、 SMI(供給市場情報)ポータルから必要な購買スタッフが随時アクセスできるようにします。 SMIポータルには、社外のオンライン情報ソースへのアクセスリンク、および社内蓄積されたデータ・情報類のダウンロードボタンが配されているのが一般的です。

    SMIが提供べき情報や洞察

    供給市場インテリジェンス(SMI)は、以下のような情報や洞察の提供の要否を検討しておく必要があります。
    ※詳細は「供給市場インテリジェンス」も参照ください。

    A.全般情報・洞察

    Global PMI Index 世界の経済・景気動向:
    購入価格および需給全般に影響を及ぼす経済・景気などの動向は、共通情報として収集し、必要な購買スタッフが容易に入手可能にしておくべき情報です。
    この一例としては、J.PモルガンGlobal PMI Indexがあります。全世界の動向が無料で提供されるため、情報源として多くのグローバル企業が利用しています。

    地域・国別の経済・景気動向:
    加えて、サプライヤー所在地域・国の経済・景気などの動向も収集しておく必要があります。
    例えば、D&B(Duns & Bradstreet, 日本の代理店は((株)東京商工リサーチ)からは、地域別(アジア太平洋、ASEANなど)や国別(アメリカ合衆国など)の経済見通しや景況の無料レポートが提供されています。

    地域・国別のリスク 地域・国別 リスク:
    供給市場のリスク(政治情勢、ガバナンス、自然災害頻度)などに関する情報も、共通情報として収集し、必要な購買スタッフが容易に入手可能にしておくべきです。
    例えば、世界銀行の世界ガバナンス指標(World Governance Index[WGI])は、欧米の小売・消費財産業を主体に、その地域・国から調達するかの判断指標になっています。

    D&Bグローバルアウトルック 法規制動向:
    貿易取引や環境・CSR(含:紛争鉱物)など様々な法規制が、調達先地域・国ごとに新規施行・改訂され続けています。 それらに関する情報(レポート類、新聞・雑誌記事に加えて、専門家の助言内容まで含まれることがあります)を迅速に把握し、共有できていなければなりません。
    各地域・各国の関連機関(規制当局や貿易振興機関など)や専門家(法律事務所、監査法人など)、あるいは新聞や専門誌の記事として提供される、これらの情報の収集と共有も、SMIの重要な活動となります。

    B.品目ごとの情報・洞察

    B-1.市場情報
    市場価格動向 市場/価格動向:
    各国の公的機関(日本:日銀, 米国:労働統計局など)が発表している価格動向(生産者物価指数:Producer Proce Index[PPI])は、価格推移の実績把握に使える無料データです。
    加えて今後の調達計画立案のために、価格先行き見通し(直近および先行き2~5年見込みなど)を、その品目に強い市場調査会社から入手しておく必要が生じるかもしれません。
    なお、価格に重大な変化が予想される場合は、この情報が生産計画や利益計画といった経営計画へのインプットになる場合もあります。

    市場価格動向 需給動向:
    当該品目の需要推移(過去実績および先行き2~5年見込み)および市場供給量の予測は、調達先をどこにし、購買品の在庫・物流をどうするかの検討材料になります。 なお、前述の価格動向と需給動向は相関関係にあるのが一般的です。また、大量の購入先(需要家)が存在する場合には、その購入動向に需給が影響を受けることがありますので、大口の買い手の動向にも留意する必要があります。

    なお、需給に重大な変化が予想される場合は、この情報が生産計画や販売計画といった経営計画へのインプットになる場合もあります。




    B-2.サプライヤー情報・洞察
    サプライヤー別市場シェア サプライヤー別市場シェア:
    サプライヤーごとの市場シェア推移(過去実績および先行き2~5年見込み)は、主にサプライヤーが属する市場に強い市場調査会社などから入手(基本は有償ですが、無償の場合もあり)できます。
    当該品目へのサプライヤーの営業方針にも依存しますが、例えば売上やシェアが下降傾向のサプライヤーに対しては、買い手の優位性が高まっている可能性があります。


    サプライヤー・ディレクトリ" サプライヤー・ディレクトリ:
    必要な品目の業界団体、貿易振興団体、市場調査会社のサプライヤー総覧や調査レポート(有償購入分を含む)などを適宜収集して、蓄積しておくことが望まれます。
    また、信用調査会社(D&Bなど)のサプライヤー情報サービスを契約している場合には、それへのアクセス経路管理なども、役割として含まれます。
    さらに、主要サプライヤーを公開している企業(Appleなど)のサプライヤーリストを収集・蓄積し、参考資料とすることも考えられます。

    C.その他
    C -1.業務ベンチマークデータ:
    ベンチマークデータ 業務ベンチマークデータ:
    自社の業務改善の検討材料として、購買業務の他社との比較データの入手が考えられます。
    コンサルティング会社が発行しているアンケート結果レポート類は、無料でデータを入手する手立てとなります。
    また調査機関から有償でデータを購入することも考えられます。例えば、APQC(American Productivity and Quality Center)では、「」、「」、「」の観点から、平均およびトップxx%の企業のデータ(項目「」など)を入手することができます。

    収集データ

    上記の情報・洞察の主なデータソースは、以下のようなデータとなります。
  • 政府資料(公的機関による資料)
  • 業界団体(Industry associations)資料
  • 業界誌(Trade journals and periodicals)
  • 市場/業界調査会社
  • 企業信用調査会社
  • 業界アナリスト・コンサルタント
  • サプライヤーによる公開情報-ウェブサイト掲載情報、IR情報など
  • 取引があるサプライヤーからの提供情報(業界トレンドなど)
  • 権威者のソーシャルメディア/ブログ
  • ※なお個別の詳細は「情報源-供給市場インテリジェンス」も参照ください。

    供給市場インテリジェンス業務の位置づけ
    Hackette Groupが発表しているレポート類に、供給市場インテリジェンスの重要性の認識のアンケート結果が示されています。

    課題の優先度 2014年 2014年の優先度:
    年次で発行される"CPO Agenda"レポートの2014年版には、「購買業務能力の重要課題(Procurement Key Capability Issue)」の調査結果が示されています。 比率の値は、「重要(Major もしくは Critical)」と回答した回答者の比率ですが、45%が供給市場インテリジェンス能力の拡充が必要との見方を示しています。この傾向は前年から大きな変動はありません。

    課題の優先度 2015年 2015年の優先度:
    2015年度の"CPO Agenda"レポートでは、「重要度」と「現在の能力獲得状況」の2軸でのプロットで表現されました。 例えば「ストラテジックソーシング」や「品目カテゴリ管理」は重要ではあるが、すでに手が打たれて業務能力の獲得が進みつつあります。 それに対して、供給市場インテリジェンスは重要度は中庸ですが、必要な能力が十分に獲得できていない状況となっています。

    アウトソーシング状況 2014年 アウトソーシングの状況:
    一方で、2015年度のレポートで供給市場インテリジェンスは最も社外アウトソースが進んでいて、今後もその傾向が続くであろうことが読み取れます。

    実施手順
    SMI実施手順

    主要業務

  • 識別(Identify):
  • 購買スタッフの活用ニーズに適合する情報源の探索・識別が供給市場インテリジェンス担当者の大きな役割となります。
  • 収集(Collect):
  • 情報源からの情報入手が次のステップです。情報源の中には継続的に情報提供が行われるものがあるため、複数回繰り返しでの情報収集作業が必要になる場合があります。
  • 選別(Filter):
  • 収集情報が活用ニーズに合致するか否かのチェックが必要になる場合があります。 そのような場合には、供給市場インテリジェンス担当者が内容を確認し、必要性を見極める能力を発揮しなければなりません。
  • 分析(Analyze):
  • 場合によっては、供給市場インテリジェンス担当者が情報を分析し、取りまとめたうえで推奨策を提示することもあります。 ただし、分析・判断は、より深い知識と実施判断を担当する品目カテゴリ担当の購買スタッフの分担とし、(特に社内の)供給市場インテリジェンス担当者は一定形式への取りまとめまでの役割分担としている場合が多いと認識しています。

    管理・補助業務

  • 計画・予算化(Plan):
  • 通常は年度初めに、購買スタッフの活用ニーズを把握し、それを達成するための活動計画と予算化(有償情報購入分を含む)を立案します
  • 実績把握(Measure):
  • SMIポータルの利用実績や供給市場インテリジェンス担当者はの問い合わせ件数などから、利用実績を継続的に把握していく仕組みの設定が必要になります
  • 情報管理(Maintain):
  • 収集した情報を蓄積したSMIポータルを運用する工数や、オンライン情報ソース(有償)のユーザーID管理などの基盤となる業務工数も見込んでおく必要があります。

    業務分担
    A.専任者を配置する場合:
    購買スタッフ各自が個別に供給市場に関する調査を行う際に発生しかねない業務重複や情報精度低下を防ぐために、一定規模以上の購買組織では専任の供給市場インテリジェンス担当者の設置が検討されます。
    年初に購買スタッフの調査ニーズが調査され、それに応じて供給市場インテリジェンス担当者に業務が割り当てられます。

    B.組織内で分担して行う場合:
    ただし、専任の供給市場インテリジェンス担当者を置くまでの組織規模・調査量がない購買組織も多く存在しています。 そのような場合でも、収集する情報と共有蓄積場所を年度ごとに定義し、購買スタッフが分担して情報収集に当たる手順を設定する組織が、供給市場インテリジェンスの潮流に合わせて増加しつつあります。
    それにより、個人の机の中への情報の仕舞いこみや、同一情報の重複収集(重複購入)などの業務の非効率性排除を検討することが、情報活用の認識の高まりとともに、購買部門での標準手順手順として定着してきています。

    C.社内部門へアウトソースする場合:
    購買部門での情報収集を考える場合に、購買部門での不慣れさもあって障害となりがちなのが、情報源の識別です。 その対応策として、市場情報調査に慣れた販売側の社内市場調査部門に購買の供給市場インテリジェンスの実施を委託するケースもあります。 欧米企業では、低コスト地域に市場情報調査部門を設置している場合がありますが、その業務の一部として市場調査部門が供給市場インテリジェンスを担当している場合があります。

    D.社外へアウトソースする場合:
    「概要-供給市場インテリジェンス業務の位置づけ」にも記述したように、供給市場インテリジェンス業務を社外アウトソースする動きも進んでいます。以下に示すようなアウトソーシングの提案も出てきています。
    Tata Consaltancy Service社のパンフレット

    (その他)