企業版マイナンバー(法人番号)がやってくる

個人に対するマイナンバーの10月通知を控えて、企業版マイナンバーとも呼ばれる「法人番号」に関する新聞記事も出てきました。また、企業業務全般を対象にした法人番号セミナーの案内なども見かけます。では法人番号は、サプライヤーを取り扱う購買業務にはどのような影響があるのでしょうか。その制度の概要と、業務への影響をまとめてみました。

結論としては、サプライヤーの法人番号のデータ入手準備には可能であれば着手しておくべきですが、特に緊急を要する必要も無さそうです。

新聞ではどのように報道されているのか

9月になると、日本経済新聞などで「法人番号」の報道がみられるようになってきました。例えば、9月25日の日経朝刊では以下のように報道されています。

マイナンバーの陰に隠れがちだが、企業にも10月から13桁の番号が振られることになる。これまでも、政府は企業などの法人に番号をつけていたが、省庁など行政機関ごとにバラバラの番号だった。これを統一して、行政の効率化を図ろうというのが「企業版マイナンバー(法人番号)」の最大の目的だ。 (中略)
民間企業でも法人番号は活用の余地がありそうだ。取引先情報では、社内の部署ごとに名称や事業所を微妙に異なった形で管理している可能性もある。番号にひも付けすることで、取引情報が会社ごとに一括管理することも可能。業務の効率化につながることが期待されている。
経済産業省は「番号で企業が特定できる」ことだけでも、業務効率化などを通じて年70億円の経済効果があるとはじく。
ただ、民間では既に信用調査会社や業界団体が作った企業コードが普及し、企業は既存のコードを情報管理に活用している。既存のコードと法人番号とをどう使い分けるのかは、企業によって対応が分かれそうだ。

9月27日の日経朝刊では、以下のような記事もありました。

政府は2017年1月から企業版のマイナンバーを活用し、登記事項証明書などの企業情報をネットで一括で入手できるようにする方針だ。取得時の手数料も引き下げる方向で、無料にすることも検討する。マイナンバーの普及が進めば納税者に恩恵が及ぶような体制を整える。
企業版マイナンバーを使った新しい仕組みは「法人ポータル」との名称で、今秋から政府のマイナンバー等分科会で詳細を詰める。政府が保有する企業情報に番号を書き込み管理しやすくする。ネット上の法人ポータルで番号を入力すれば各省庁が持つ情報を簡単に入手できるようにする。
対象は法務省が所管する登記事項証明書、国税庁の納税証明書、金融庁の有価証券報告書、厚生労働省の社会保険料関係の書類などだ。経済産業省では補助金の認可証明のほか法律に基づく企業の届け出や表彰も入手できるようになる。
証明書の費用や手間も減る。例えば登記事項証明書は企業間取引だけで年7086万件使われる。現在は1件337円の手数料がかかるうえ、法務局に出向くといった手間もかかる。政府内では、企業の申請事務や手数料負担が減るため年8000億円以上の経済効果が見込めるとの試算もある。
政府は法人ポータルの構築を14年夏の成長戦略に盛り込んだが、一部省庁が反対し頓挫しかけていた。行政の効率化を通じマイナンバーの恩恵が広く及ぶようにしなければ納税者の反発が強まると判断。再び法人ポータルの導入にカジを切る。

一方で、効果を疑問視する内容の記事(タイトル「企業版マイナンバー、「メリットなし」4割(日経MJ、9月2日)」もあります。

同制度の認知度では「名称だけ知っているが、利用法は分からない」が54・3%と半数を超えた。「ある程度の内容を知っている」は資本金1億円以上の大企業で46・3%と、同1億円未満の中小企業(29・5%)を15ポイント以上上回る。
同制度の活用は「検討中」が39・6%と最も多く、「予定がある」(5・4%)を合わせると45・0%になった。「予定はない」は14・6%にとどまった。
活用のメリット(3つまで選択)で「ない」としたのは大企業で36・9%、中小企業で43・0%。ただ、大企業では「取引先管理の利便性向上・効率化」という前向きな評価も31・0%と3割を超えた。

一体、どのようなものになるのでしょうか。

法人番号(企業版マイナンバー)とは

法人番号は、2015年10月末から通知が始まり、それに伴い、インターネットを介した検索サービスが提供されるます。

法人番号の仕様は、下図のようになります(出典:資料「法人番号の公表機能に係る仕様」 12.法人番号の体系及び検査用数字を算出する算式 )。

図1_法人番号の仕様

付番は国税庁が担当し、法人・団体ごとに固有番号が割り当てられます。
付番対象はかなり広範囲となる見込みです。
「7nnnn1」の区分にあるように、設立登記のない自営業のような業態であっても、消費税課税事業者(課税所得1000万円以上)や、雇用している従業員に給与を支払っている(給与源泉徴収を行っている)事業者すべてが対象となります。その範囲は下図のようになります(出典:法人番号について、詳しく解説します-法人番号の指定対象法人等のイメージ)。
図2_付番範囲

2014年11月の経済産業省資料「法人向けポータルに関する検討状況」では、付番対象者数は300万社以上となっていましたが、2015年5月の国税庁資料では440万件に増えています。
非常に大きな数字となっています。

企業番号は公開され、法人3情報が検索可能に

個人に付番されるマイナンバーは非公開で使用制限もありますが、法人番号は原則として公表され、誰もが自由に利用できます。民間にも普及させ、効率化を図りたいと政府は考えています。

民間利用を促進するため、2015年10月5日に「国税庁法人番号公表サイト」が開設されます(運用開始は10月26日)。そこでは、法人3情報と呼ばれる「法人番号」、「商号(社名)」、「所在地」が、誰でも参照可能になります(下図出典:法人向けポータルに関する検討状況(平成26年11月 経済産業省))

図3_公表情報

法人3情報の公表形式

法人3情報の公表はインターネットを介して行われ、その方式は「WEB経由」、「ファイルダウンロード」、「情報記録媒体経由」、「システム連携(Web-API)」の4つになります(以降の出典はすべて「法人番号の公表機能に係る仕様(2015年5月、国税庁)」)
図4_公表機能全体

検索操作方法(WEB経由)

まず最初に、代表的な「WEB経由」方式を見てみましょう。検索キーとして「法人番号」、「商号」、「所在地」を指定すると、該当するデータが画面に検索表示されます。

図4_操作_WEB1
図4_操作_WEB2
図4_操作_WEB3

(より詳細な操作が、パソコン版スマートフォン版に分けて説明されています)

検索操作方法(ダウンロード)

さらに、都道府県単位の登録全件(毎月最新版に更新)、あるいは日々の変更分のみをデータとしてダウンロードする機能も提供されます。(より詳細な操作は、ダウンロードデータの取得方法として説明されています)
図4_操作_ダウンロード

このダウンロード機能により、以下のような項目を持つデータが入手できます。情報システムのプログラミングを使えば、情報の自動取り込み・更新機能などを構築できるものと思われます。
図4_操作_ダウンロード項目

通知・公表開始スケジュール

法人番号の通知および公表サイトの利用開始時期は10月末以降、順次と予定されています。

図5_通知時期
図5_表示開始時期
(出典:法人番号の「通知・公表」開始スケジュールについて(2015年9月8日、国税庁))。

提供される法人3情報はどのように購買業務に使えるのか?

では、このように提供される法人番号の活用は、購買業務ではどのように考えられるのでしょうか。

例えば売掛金回収などでは、どの顧客(お客様)から振込入金されたかが簡単に判らず、その判別に多大な工数がかかる場合があります。お客様ですから、「社名識別のために、自社の取引先コードを振込元名称欄に記入してください」などと、お客様に面倒になることはなかなか言い出せません。それに対して「政府の方針」といった理由づけで法人番号を記入してもらうことができれば、事務を大きな効率化につながるかもしれません。

では購買業務ではどうでしょうか。政府資料には、取引先名寄せの事例が掲載されていますので、まずは「名寄せ」という観点から考えてみましょう。確かに、グループ会社間などで異なったサプライヤーコードなどを使っていて、名寄せがうまくいかない場合は法人番号はその解決策として有効な手段になると思われます。
図6_活用_取引先名寄

ただしこのような効果が実現できるのは、サプライヤーコードが十分に統一できていなくて、サプライヤー法人単位での名寄せが困難な企業あるいは企業グループに限られます。企業グループではまだこのような不具合がある可能性はありますが、同一企業内での不統一はかなり少なくなっているのではないでしょうか。

一方で、法人番号はその名前のごとく法人単位の発番ですので、調達購買業務のようにサプライヤーの支店事業所単位での取引が主体となる場合には、それほどうまく適用もできません。

では法人3情報の公表の活用という観点から考えてみたらどうでしょうか。現在、Supplier On-boadingなどの名のもとに、買い手企業のWeb上で新規取引候補になりたいサプライヤーに申請登録してもらう仕組みが増えつつあります。その場合に悩みとなるのが不適切ないたずら情報登録(ありもしない企業情報のいたずら登録など)です。もし法人番号を入力させることができれば、登録企業の存在確認には使えるかもしれません。

しかしながら、さほど緊急対応をすべき事態とは思えません。

政府は「法人ポータルの詳細検討」へ

政府は、さらに進めて、法人番号を使った法人関連情報のワンストップサービスなどを実現するサイトとしての「法人ポータル」の検討を進めるようです。冒頭の9月28日の日経新聞の記事はこれを取り上げていました。

では、法人ポータルの活用としてはどのような事例が考えられるんでしょうか。
例えば、「法人向けポータルに関する検討状況(2014年11月、経済産業省)」の内には、以下のような利用事例案が紹介されています。

図7_ポータル_新規取引口座

また、「法人番号とポータル ユースケース事例(平成26年12月25日、ニューメディア開発協会)」では、NTTデータから以下のような活用事例案が提示されています。

図7_ポータル_一括情報取得

ただし、法人番号を使ってはいませんが、例えば、商業登記情報(法務省)も、有価証券報告書情報-EDNET(金融庁)もインターネットで入手できる状況にあります。

要約すると

従って、法人番号に対して、購買業務で緊急対応必要はないのではと思います。
もっとも、新規にサプライヤー情報に関する情報システムを構築する際には、後日に追加コストを発生させないためにも、データ格納用の項目「法人番号」は設定しておくべきであると思います。 ただし、その項目に実際のデータ値を設定するまでには、まだ時間的余地があるように思います。

なお参考ですが、官庁では13種類の企業コードが存在しているようです。これらのコードの統一は、官庁業務の効率化に寄与しそうに思います。

図8_官庁_企業コード

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