日本政府の購買通信簿発表~平成26年度調達改善の取組に関する点検結果

  • 日本政府の調達改善の取り組み状況を総括した「平成26年度調達改善の取組に関する点検結果」が、8月10日に内閣官房行政改革推進本部事務局より発表されました。
  • 日本政府では、内閣官房の行政改革推進会議が主体となり、様々な調達改善の取り組みを行っていまが、その内容は民間企業の購買業務でも参考になると考えています。
  • そこで、政府施策に対する実施状況の比較ツールを作成し、比較できるようにしてみました。

日本政府は、平成25年4月の「今後の調達改善の取組について」で、以下のように方針設定しています。

限られた財源の中で政策効果を最大限向上させるためには、政策の遂行に必要な財・サービ スの調達を費用対効果において優れたものとすることが不可欠である。 こうした調達改善の取組は、各府省等において、調達する財・サービスの特性を踏まえ、主体的かつ不断に創意工夫を積み重ね、深化させていくことにより、その成果が得られるものと考えられる。 このため、各府省等がPDCAサイクルにより、透明性・外部性を確保しつつ、自律的かつ継続的に調達改善に取り組むとともに、行政改革推進会議がこれをチェックする枠組みを整備 し、政府全体として調達改善を推進する。

そして同時に、調達改善のPDCAサイクルも定義しました。

調達改善計画による取組イメージ

このPDCAサイクルに従って、継続的に実施結果の評価が内閣官房のホームページに公開されいます(毎年1月に上半期分、8月に前年度1年分の自己評価が発表されています)。

内閣官房ホームページURL: http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chotatu/

現在は、平成24年度から平成26年度分までの3年分を閲覧することができますが、平成26年度分は、8月10日に公開されたばかりです。

そのレポートには、各府省庁の実施結果および自己評価がまとめられていますが、各府省庁の報告内容を、取りまとめ主体の行政改革推進本部で点検し、整理した内容です。
そのため、実施府省庁の思惑に偏ることがない、客観的な整理・評価になっているのではと、毎年読んできました。そして、その公表内容(調達改革の状況やトレンド)は、政府以外の組織でも十分に参考になると思います。

平成26年度調達改善の取組に関する点検結果

平成26年度(2014年4月~2015年3月)の内容に入る前に、調達改革が対象としている金額が、政府の総支出額(一般会計・歳出額)に対してどのくらいの比率になっているかを確認しておきましょう。

平成26年度の点検結果レポートでの対象金額(「国の調達に関わる契約金額(国の契約金額)」)は、国の全支出額(一般会計歳出額)の1割弱、8.2兆円がその対象となっています。

図2_国の契約金額の推移

重点的な取り組みの実施状況

平成26年度調達改善計画では、以下が共通の重点的な取り組みテーマとして、各府省庁での実績と自己点検結果をまとめています。

  1. 随意契約の見直し
  2. 一者応札の改善に関わる取組
  3. 汎用的な物品・役務 の(共同)調達
  4. その他の調達改善の取組 ー 総合評価落札方式の活用など

加えて、情報システムの調達も、共通の課題として言及しています。

1. 随意契約の見直し

契約方式の用語は、官公庁特有の会計法などで定義された用語が使われます。少し聞き慣れない特殊用語ですが、その内容を把握するには、「随意契約の適正化について(平成19年1月)」の図が良いように思えます。下図は、上記資料から引用した契約方式の定義図です。

図3_会計法上の契約方式整理

競争性がない随意契約とは、サプライヤーが1社しかなく、そこから購入せざるを得ない場合を指します(いわゆる特命発注です)。それに対して、競争性のある随意契約とは、企画案をサプライヤーに提出させる方式(企画競争と公募の2方式あり)に、競争入札とは、確定仕様に対してサプライヤーに入札してもらう方式になります。

この契約方式別の調達金額推移を平成18年度から表示したのが、以下のグラフです(一部、データが把握できない年度がありました)。

図4_契約方式別契約金額推移

報告書では、毎年20%前後で推移していると総括していますが、前年に比べて若干比率・金額ともに上昇しています。またもしかすると、「競争性のない随意契約が2割」という値は、政府以外での購買業務を考えるうえで1つの目途になるかもしれません。

2. 一者応札の改善に関わる取組

一者応札の改善にかかわる取り組みになると、平成26年度は悪化傾向が見られます。

図5_一般競争入札での一社応札率

これについて、平成26年度の点検結果レポートでは、「平成24 年度と平成25 年度の一者応札の割合が増加したことについては、経済状況の好転による事業者の供給制約等の影響も考えられ」との分析がされています。政府調達にも、需給がタイトになってきた影響が出てきています。
一方で、平成26年度の点検結果レポートは安易な一社応札にならない抑止策や、一社応札でも契約期間を複数年度かすることでコスト削減した事例を紹介しています。
(政府予算は単年度のため、複数年度にわたる契約を行うには「国庫債務負担行為」として、特別な措置が必要になります)

3.汎用的な物品・役務 の(共同)調達

8月9日の日経朝刊では、平成26年度の点検結果レポートの、特に共同調達について、以下のように報じられました。

政府は2014年度の各省庁の物品調達の状況をまとめた。コスト削減につながる省庁をまたいだ事務用品などの共同調達は合計で13億2752万円で、13年度より1082万円増えた。集計を始めた10年度に比べると約8倍に拡大した。コピー用紙や防災用品などの備品のほか、クリーニングや配送といったサービスを一括して発注するケースが増えている。
政府の行政改革推進本部が11日に発表する。各省庁がそれぞれ購入する従来のやり方から、省庁横断のまとめ買いに切り替えれば、発注作業の共通化で経費を節減できる。一度にたくさん発注すれば単価も下がりやすい。
庁舎が隣接する外務省、財務省、経済産業省、農林水産省の4省は14年度にペンやはさみ、封筒といった事務用品1億円分を一括で買った。内閣府、宮内庁、消費者庁、復興庁の4府庁は共同で防災用品を購入した。

共同調達は、平成23 年度から、霞が関周辺に所在する全府省庁を6つのグループに分けて府省横断的に実施されています。対象品目は、事務用消耗品、紙類、清掃用消耗品などの物品、クリーニング、配送、速記(政府独特ですね)などのサービスが対象になっています。報告では、平成26年度に官用車のガソリン調達の拡大が図られたことが記述されています。

加えて、コピー用紙の白黒両面印刷の徹底、発注単位の集約化、納入場所の削減、調達数量・種類の見直し、定期刊行物の数量の見直し、消耗品の集中管理やインターネット取引の導入等、経費節減策が採られていることも紹介されています。

品目の拡大が図られているようですが、共通汎用品の観点では急速な拡大を行うには、限界が見えているように思われます。いったん実施後は、それほど共通汎用品が見いだせないということと思います。

府省庁別の達成状況

平成26年度の点検結果レポートが従来と大きく異なるのは、府省庁別の達成状況をA・B・Cの3段階で採点評価しているところです。しかしその実績を見る前に、府省庁別の支出金額の分布はどうなっているかを見ておきましょう。

府省庁別の支出金額分布

図6_国の調達契約金額分布

このように政府の調達に係る契約では、国土交通省(特に、公共工事)、防衛庁(特に、物品役務等)、および農林水産省で81.4%と、全体の大半を占めています。この3省の出来具合でおおかたの実績が決してしまう構造にあります。

6月11日の日経朝刊では、防衛装備庁の10月発足が報じられましたが、このような支出額の構造が、防衛施設庁設立の背景としてあります。

防衛装備庁、省予算の3割強、10月にも発足、輸出・開発の交渉担う

防衛装備品の開発から取得、廃棄まですべて手がける防衛装備庁が10月にも発足する。改正防衛省設置法が10日の参院本会議で成立。5兆円近い防衛予算の3分の1を握る巨大組織が誕生する。防衛装備移転三原則に基づき、装備品・技術の輸出や国際共同開発の交渉を担当する専門部署も設ける。
防衛関係費は安倍政権でやや拡充し、2015年度の一般会計予算で約4兆9800億円。5兆9700億円の公共事業費や5兆3600億円の文教・科学振興費に迫る。装備庁は約1兆6500億円分の事業を担い、装備品のまとめ買いや長期契約で経費を抑える。
防衛装備品の取得や開発は、陸海空の各自衛隊や装備施設本部、技術研究本部に分かれ、別々に手掛けている。装備庁はこうした部署をたばね、1800人規模での発足をめざす。

目標達成状況

平成26年度の点検結果レポートで新たに導入された目標達成状況評価基準は、下表のようになります。

図7_目標の達成状況の評価区分

これに即してた各府省庁での「調達改善計画で記載した事項」達成状況の自己評価結果は、以下のようになっています(手集計のため、誤差があったらご容赦ください)。

図8_省庁別自己点検結果

支出金額トップ3の国土交通省、防衛省、農林水産省とも高い評価になっています。

もっとも、消費者庁の「C」は、消費税分金額が増えたという無理がある内容の厳しい評価ですし、「少しでも着手があれば「A」にしている事例があった」などの記述がレポート内になされているなど、次年度以降に精度アップが図られていくのではと思われます。

また、削減金額実績は一部の府省庁で部分的に公開されているのみで、定量的な成果公表も今後の改善項目と、れぽーとではされています。

政府調達施策とベンチマークしてみよう

点検結果レポートの魅力は、多岐に渡る施策が多数、その実施状況とともに紹介されているところです。これらは、政府以外での調達でも参考になるばかりか、「サプライヤーへのメーリングリストによる情報提供」や「調達改善計画とその実施結果の組織全体への公開」など民間企業ではあまり実施されていない施策を見出すこともできます。

従ってこれを読みながら、自組織での出来具合を、政府調達と比較してみることができます。そこで平成26年度の点検結果レポートから実施施策を抜き出し、それに対して自組織での出来具合をチェックするシートを作成してみました(以下からチェックシートを入手できます)。

政府調達施策との比較採点シートへのリンク(こちらをクリックしてダウンロード)

比較採点シートの使い方

資料「平成26年度調達改善の取組に関する点検結果」に掲載されている政府調達施策を抽出し、「ノウハウの共有およびスキル育成」、「業務プロセス」、「業務手順・ルール」、「購買手法」、「ステークホルダー対応(サプライヤー・要求部門」、「業績評価とその公開」に区分しました。
そして、その各項目ごとに「実施済」、「一部実施」、「未実施」の評価回答が行えるようにしています。

シート「採点シート」を開いて、C列の「解答」欄で、各設問の「実施済/一部実施/未実施」の評価をプルダウンメニューから選択してください。

図9a_比較シート_採点入力

回答が終了したら、シート「比較レポート」を参照すると、政府調達施策に対する状況のスパイダーチャートによるレポートを参照できます。

図9b_比較シート_結果表示

なお、この資料を作成する材料として、資料「平成26年度調達改善の取組に関する点検結果」から、抽出した政府調達施策の一覧は、シート「政府調達施策一覧」にまとめています。

図9c_政府調達施策一覧

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