2014年の憂鬱 ~ 購買部門の業績向上は限界に達しました

2014年5月発行のThe Hackett Groupのインサイトレポート「Five Characteristics of World-class Procurement Organizations in 2014」のエグゼクティブサマリは、以下のように記している。

ワールドクラスの購買組織は、平均的な購買部門に対して、2014年も引き続き大幅に優れた記録をあげた。19%も安いコストで高品質のサービスを提供し、要した工数も27%も少なかった。
しかし、ワールドクラスの購買組織の効率性改善は、実務的限界に到達してしまった。(However, the worldclass group’s efficiency gains have essentially reached their practical limits.)

その下の章のタイトルは「ワールドクラスの購買組織で効率性向上は続いているが、価格については?(World-class Procurement Organizations Continue Their Efficiency Gains, But at What Price?)」だ。このレポートはスポンサーのAriba社のサイトから入手できるが、ただしそのサイトの表記では、この「不都合な真実」は削除されてしまっている。

いったい何が起きているのか?

支出額に対する購買部門コスト比率の改善余地は乏しい

The Hackett Groupが2013年に実施した調査結果に基づく、このレポートでは2つのトレンドグラフを使って、購買部門の状況を説明する。

最初に紹介されるのは、「支出額に対する購買業務コストの比率推移」である。レポートはこう述べる。
「ワールドクラスの購買組織は、人件費、外注費、情報システム費などのコストを、2013年に1.6%削減した。対して、平均的な購買部門は、それを上回る3.0%の削減を行っている。これまではうまくいっていたワールドクラスの購買組織でのコスト削減が、今や難しくなっている。現在、ワールドクラスの購買組織は極端にリーン(lean)な状態、ある意味リーン過ぎる状態で運営されている。」

下図はレポートで示されている「支出額に占める購買業務コストの比率推移」グラフである。
上記の記述があるが、ワールドクラスの購買組織だけでなく、平均的な購買組織でも、もはや支出額比での購買業務コスト効率の改善は見込まれていない。

図1_支出額に占める購買業務コスト

上記の資料では2005年以降の推移しかわからないが、さらに長期の範囲で傾向を見るとどうなるだろうか?
2010年のレポート「Procurement value, performance and capability study(The CIPSA-Hackett Group)」には、1996年から2010年のデータが掲載されている。
これをつなげると約20年間の推移が俯瞰できる。

図1b_支出額に占める購買業務コスト

 ワールドクラスの購買部門の「支出額に占める購買業務コストの推移」は、2000年代半ばには低減が止まり、以降はほぼフラットで推移してきている。2000年代半ばといえば、オフショアへの購買業務アウトソーイングに先進的な企業が業務移管を本格化したタイミングにほぼ一致する。それに対して、平均的な購買部門では2000年代は低減が続くが、2010年代には低減が止まっている。ワールドクラスの購買部門でも、平均的な購買部門でも購買業務コストの比率推移はフラットになってしまっている。

支出コスト削減率が悪化していく

支出コスト削減成果が低下しているとなれば、それ以上に大きな問題だ。
それに対して、このレポートでは、ワールドクラスの購買部門のコスト削減率が2013年の6.5%から、2014年には5.3%へと、数値としては17.3%も落ち込んだことが、次に述べられている。
コスト削減率の向上は今後は望めないして、前述の購買業務コストと相まって、下図のような購買ROIの横ばい傾向を予測している。

図2_購買ROI

では、本当にコスト削減率は低下しているのであろうか。
コスト削減率の算出にはコスト抑止(Cost Avoidance)分が含まれるため、仕入物価やエネルギーコストの値上げ圧力が高い期間ほど、実績が上がる傾向がある。
そこで、物価指数やインフレ率と、The Hackett Groupが毎年発表しているコスト削減率の推移をプロットしたグラフを作成してみよう。

以下のグラフは、The Hackett Groupのプレゼンテーション資料「2014 Procurement Key Issues – Overview (Mélani Flores)」の5ページの様式にならって作成した。

 図2a.物価指数・インフレ率とコスト削減額の関係

2013年と2014年の物価指数とインフレ率はほぼフラットであるのに対して、ワールドクラスの購買組織のコスト削減率は減少している。
この傾向から見ると、レポートが述べているように、やはりワールドクラスの購買部門のコスト削減率は悪化していると考えられる。

全体的に俯瞰してみると

The Hackett Groupが定期的に調査している他の数値指標 – 「購買業務予算」、「購買要員数(FTE)」、「企業の売上高」の増減率の調査結果 – を組み合わせてみると、さらに課題が明確になる。なお、指標値が取得できるのは2010年以降であるため、その期間でグラフを描いてみる。

図3_総合グラフ

ワールドクラスの購買部門が好業績をあげていた2010年頃には、購買業務予算と購買要員数の双方が抑制され前年よりも減少していた。にも関わらず、ワールドクラスの購買部門は成績を上げていた。
その後、企業業績(売上高)の回復に伴って、2013年頃から購買部門に予算も人員も追加手当されるようになってきている。この増強には、当然ながら2010年頃を越える業績向上の期待が込められているはずだ。

にも関わらず、購買部門の業績があがらなくなってしまっている。ヒトやカネの増強効果が発揮されていないばかりか、効果自体がが低減してしまっている。
増強を行っても、もはや業績の向上が望めない購買部門は、「期待外れの金食い虫」になりつつある。

何が起こりつつあるのか

このような状況に対して、レポート「Five Characteristics of World-class Procurement Organizations in 2014」では、購買部門の「5つの別の道」の提案を行っている。
すなわち、「事業部門から信頼されるパートナーになる(Being a trusted advisor to the business)」、「サプライヤーからイノベーションを引き出す(Driving suppliers to innovate)」、「分析に基づいた洞察を提供する(Providing analytics-backed insights)」、「ビジネスをリスクから守る(Protecting the business from risk)」、「購買スタッフ確保での柔軟な対応策を用いる(Employing an agile approach to staffing)」である。ただし、どことなく既視感を感じなくもない施策である。

一方で、Harvard Business Review(HBR)のウエブサイトに論文「The Problem with Procurement」が掲載されたのが、これまで述べてきた課題が顕在化し始めた2013年8月になる。
そしてHBRの論文への反論として発表されたプレゼンテーション資料の1つに含まれる「Is Procurement the Problem?」の後ろに配されたイラストが、有効性を失った購買部門に突き付けられる課題を象徴的に語っているように思われる。

図4_I have to work with procurement

コスト削減に関する購買部門の業績に疑問符がつくと同時に、購買部門の存在意義(レゾンデートル)が問われ始めている。

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