Googleの購買は他社とは違うんだ!!

Google logo

自社の購買業務は他社とは違うんだ…そんな求人をLinkedInに掲げている企業がある。Googleだ。
Googleは、次のように自社の購買業務の紹介を始める。

Googleは多くの他企業とは異なる購買/戦略ソーシングの取り組みを実践する。Googleは、機敏かつイノベーティブな企業であり、我が社のエンジニアたちは常に世界を変える方法を探している。Supplier Sourcingチームの仕事は、製品開発・製造に用いるサプライヤーを探索し、選定し、重要な取引をエンジニアたちが行うのを支援することだ–迅速に。
At Google, we take a different approach to procurement or strategic sourcing than most other organizations. We’re a fast moving, innovative company and our engineers are always looking for ways to change the world. The Supplier Sourcing team’s job is to help them find, select and get great deals with suppliers to enable them to develop and scale products — fast.

もっとも、「Do cool thing to matter(課題はクールに解決せよ)」をスローガンに掲げていたり、「Google is not a conventional company(Googleは従来型の企業ではない)」などと明治したり、Googleはとかく他社との違いを強調する企業であるから、もしその購買部門が注目を集めていなければ、こんな記述があっても見過ごしてしまっているかもしれない。

しかし、その購買部門であるProcure to Payの長であるDavid Natoffが、2015年度ISM年次総会(ISM Annual Conference 2015)のSignature Sessionsの時間帯のプレゼンターに選出され、「Transformation to Trusted Business Partners: Cost Savings Are Not Everything」のタイトルで、ベストプラクティス紹介の満員御礼セッションを実施したとなると話は変わってくる。今、もっとも注目されている購買部門の1つがGoogleだ。

ISMでのセッション内容は、後日の資料公開を期待するとして、現在入手可能なSIG Global Sourcing Summit(2014年4月1~3日)の資料を見ていってみよう。なお、この資料は、以下のURLより入手できる。以降で紹介していないスライドを含めて、参照してみていただければと思う。
資料URL: http://sig.org/newsletter.php?id=8730

Googleの購買ステークホルダーマネジメント

1年ほど前のプレゼンテーションには、「至高の購買ステークホルダーマネジメントの探求(The Search For Excellence In Procurement Stakeholder Relationship Management)」というタイトルが付けられている。

発表内容は、GoogleのSupplier Sourcingチームがどのように組織としての方向性を定め、その実施施策を設定していったかというストーリーである。そして、その方向は「ステークホルダーマネジメントの強化」である。

この資料で紹介されるSupplier Sourcingチームは、35人と大きな組織ではない。
Supplier Sourcingチームの紹介

そして「RFP屋ではなく、事業部門から信頼されるパートナーになる」ことが、チーム目標になっている。
Stakeholder Relationship Management

しかし、「事業部門から信頼されるパートナーになる」ことの困難さは、従来から言われていることである。
その一般例をWhitney Taylorが行ったプレゼンテーションを引き合いに出して、まず説明する。従来から引き続いている断絶

その後で、Supplier Surcingチームの状況をSWOT分析した結果が提示される。Supplier Sourcing業務に関して、自身を振り返ってみると....

そしてその結果として、Supplier Surcingチームの目指す方向性をどのように定めたかが示されている。
結論は、「ステークホルダーリレーションマネジメントへの注力」である。
そして、以降でその実現手段に関する検討が紹介されていく。

なお、ここにも示されているように、Googleの購買部門には継続的に自己を評価し修正していく様子が見て取れる。
添付の2009年時点のDavid Natoffの記事でもそうだが、自己の状況を評価して、アクションにつなげる姿勢を、Googleの購買部門は継続しているようだ。
カスタマー・リレーションシップ・マネジメント

以降は、注力領域とされたステークホルダーリレーションシップマネジメントの実行手段である。
6つの実行手段が定義されている。
重要ステークホルダーに注力するための構成要素

その1つの手法が属性Map(Attribute Map)である。ステークホルダーへのインタビュー結果から、現状の業務ニーズの充足度を明確化し、その達成を管理する属性Mapは、成功事例の1つとして注目を集めた。
属性(アトリビュート)マップとアクションプランの重要テーマ

さらにステークホルダーの満足度の定期的な測定や計画的なヒアリングとその結果反映が行われていることが示されている。
ユーザーが何を考えているのか(何をしたいか)を知るには

2013年の「Problem with Procurement」では、ユーザー側への対応が十分に行われていない問題点が提示された。それに対する対応策の1つを見れる内容にも、このプレゼン資料はなっていると思う。

ところで、「Googleで購買部門?」、「あんなに自由闊達な会社でできるのか?」などの感触を持たれる方がいるかもしれない。それには、2009年のDavid Natoffの寄稿が参考になると思う。設置後3年ほどが経過した時点のGoogleの購買部門がStart-up段階にあった時期の記述である。Googleの購買部門の実態が、より詳細に記述されているとともに、なぜステークホルダーを購買に振り向かせたかから、今後の課題までが一通り記述されている。
さらにこの寄稿にみられる特色の1つは、常に自分自身の状況を振り返り、改善のサイクルを回していく考え方をGoogleの購買部門が持っているということかもしれない。

== 翻訳 ==
社内コレボレーションの重要性(The Importance of Internal Collaboration)
David Natoff
Head of Global Supplier Sourcing, Google

1998年共同創業のGoogleは目の回るようなペースで成長し、売上200億円企業になった。しかしこの急速な成長の間、クイックな行動を強調するがゆえに、コストコントロールは結果論になっていた。ちょうど3年前(注:2006年)Googleは、コスト増加抑制およびコスト面で優れた購入を実施するために、戦略購買部門を設立した。昨今の市場の激動はあるにせよ、売上の伸び以上に支出の伸びが大きいという最近の動向を抑止もしくは逆転させる喫緊の必要が生じていた。

戦略購買チームに配属された20人の社員は、購買取引を4階層に区分して扱う戦略を採った。

下2つの階層は、直近3四半期の購入注文のうちの3%を占める支出で、原則的に自動化もしくはアウトソーシングされた。もう少し額の大きい購入には、コストとスピードの適正な釣合いを目指して、購入ガイド、電子オークションテンプレート、推奨サプライヤーリスト、基本サービス契約などからなる戦術ソーシングが適用された。

さらに大きな額の支出―これが改善の主眼点であるが―eソーシング、支出分析、契約管理および6ステップソーシング手法が適用された。ソーシングの実施に必要な規律は、スピードを強調するコーポレートカルチャーと衝突しかねなかったが、売上増加の減速が経営陣により賢明な支出の必要性を感じさせていた。Googleでは効果的なソーシングプロセスを実施する際のサイクルタイムが厳密にモニターされ、可能な限り短縮すべく、目標設定が行われる。Googleは成長し続けている比較的若い会社であるがゆえに、大企業を悩ませているERP関連の課題には乏しい。この会社は、非常にデータドリブンであり、大量のクリーンデータが四半期ごとの支出分析に適用される。品目カテゴリー分析の詳細分析(Deep Dive)は半年ごとに行われる。

Googleでは、3つの主要アクション-購入の削減、コスト効果の高い代替品への取り換え、そして再見積り-を通じて、支出削減が行われる。鮮度が関連する購入品は日々のリバースオークションにかけられるが、少額の物品やサービスであってもソーシングプロセスを経由している。

いつかの購入品でeソーシングを最初に実施したときには、削減率が50%にも達した!

代替品への取り換えは、最上ではないかもしれないが購入目的を満たす購入品がどうかを注意深く検討して、要望よりも必要に従って購入する必然を説くことで成功を収めた。再見積りでは、サプライヤーに利幅圧縮をのませる競争の力の利点を強調した。

Googleの経営陣が強要しないので、どの部門、どの社員もソーシングの必要は無かった。しかし、既存の予算の範囲でより多くのものを購入できる可能性が動機づけになった。多くの場合、社員は自発的にソーシンググループに助けを求める。

Googleでは、購買成果を最大化するために、以下のチームが協働している。

  • Finance Planning and Analysis は、購買部門が関わる今後12か月のプロジェクトの実施テーマ設定を支援する。プロジェクトの終わりには、この部門はコスト支出分析作業を行う。
  • Supplier Sourcing は支出分析およびマーケット分析、ベンチマーキング、契約交渉を行う。
  • Procure-to-Payグループは戦術購買業務を行う
  • 新組織であるSupplier Performance Center of Excellenceは社内コンサルティンググループとして設置され、上記の担当業務以外のベンダーマネジメントを担当する
  • Legal は、コストと効率の点で雛形をできるだけ使うにせよ、契約プロセスに大きく関与する

これらの部門は、担当領域の専門知識と予算を持ち、ソーシングの最終意思決定を行う事業部門のビジネスオーナーと業務を行う。ただし、このモデルの弱点の1つは、組織全体にわたって、Googleの支出改善ができないことだ。

Googeleは、6つの品目カテゴリーを定義しており、そのいくつかは、事業の特定部分に明確に関連している。Travel は購買が「担当(保有:owened)」している唯一の品目カテゴリーで、担当者はソーシングとコンプライアンス管理に時間を割いている。当然ながら、technology と corporate facilities は最も大きな支出領域の2つである。購買部門は、staffing and benefits、およびprofessional servicesのいくつかにも力を入れている。広告購入(advertising buy)には実質的に携わっておらず、広告支出は広報部門が担当している。

Googleは、強要されないカルチャーを誇る組織に適応する購買モデルを採ってきた。しかし、もし企業文化を典型的な指示・管理スタイルに今後変化させてとすれば、そのモデルは存続できないかもしれない。ソーシング部門をコンプライアンス機能として適用するには、現行モデルよりもかなり大きなチームが必要になるだろう。

これまで、Googleの購買部門は、いくつかの品目カテゴリーで初めてソーシングを行うなどにより大きな成果をあげ、すべての物品・サービスをソーシング対象として3年以上やってきた。1~2年間の短期契約を事業部門が好むこともあり、ソーシングは継続活動として実施されている。

事業部門とのコラボレーションはGoogleでは基本となっているが、この協調関係を脅かすいくつかの要因もある。急速な成長の継続は、組織を一気に拡大して扱いにくくし、現状のコラボレーションをうまくいかなくするかもしれない。さらに、いくつかの事業では自前のベンダー管理組織をすでに設立したが、そこがソーシングやベンチマークを行い、代替ソースの探索や既存関係の見直しの必要に抵抗したりしたら、軋轢が生じことになってしまうだろう。
資料URL(掲載先は9ページ):http://www.atkearneypas.com/news/docs/2009-WCCPO-Roundtable-Executive-Summary.pdf

  • このエントリーをはてなブックマークに追加